あの夏を生きた君へ





「ねぇ?お土産って本当にこれでよかったの?」



信号が赤になり、悠はブレーキをかける。

車は緩やかにスピードを落とした。


「その質問、何回目?」


「だって…。」


「大丈夫だよ。うちのばあちゃん、それ好きなんだ。
目が無いんだよ。」


悠にそう言われても、あたしの不安はなかなか消えてくれない。

当然だ、初対面なんだから。




「…お身体のほうは大丈夫なの?」


「もう、すっかり。って言っても、歳だし、しょっちゅう入退院繰り返してるけどな。…何?緊張してんの?」


からかうような調子で言う悠に、あたしは溜め息を吐く。



「結婚式の時もお会いできなくて、何のご挨拶も出来なかったのよ。」


「仕方がないだろ?あの時、ばあちゃん丁度入院してたんだから。」




信号が青に変わる。

再び車は動きだして、あたしはまた窓の外を眺めた。



「…喜んでくださるかな?」


「土産?」


「それもあるけど……。」








< 276 / 287 >

この作品をシェア

pagetop