Addict -中毒-
彼は謎だらけ。
今に感じたことじゃないけれど、改めて実感した。
これほどまで恵まれた容姿をしていて、本人も充分自覚してるだろう。
だから女性に対しても強引で強気に出られるのだ。
それは女たちにとってちっとも嫌ではなく、むしろ強引とも言える荒波に飲まれたい錯覚に陥る。
彼は酷く危険な男なのに。
だけどピアノを弾けることや、高級スポーツカーを乗り回すほどの金持ちであることは彼にとっても強みになると思うのに、敢えて言わない。
女が気づいたら素直に言うけれど、自分からは絶対に口にしない。
聞いてもはぐらかすし、それが強みだと思っていないようだ。
彼は―――
本当に何者だろう。
コーヒーを淹れながら私はさっきからずっと同じことを考えていた。
嘘で固められた人物像の中に、
真実の彼が確かに存在するのに、私はそれを見つけられない。
嘘なのか。
本当なのか。
それでも彼が真剣に私に向き合ってくれていないことだけは
事実だった。