Addict -中毒-
「お。うまい♪」
ウェッジウッドのカップに口をつけて、啓人はおいしそうにコーヒーを啜った。
「でしょぅ?いい豆なの。ところで……」
私もカップを両手を包み、啓人を見上げた。
「何でこんなに近いのよ」
私の言葉に、啓人はちょっとだけ笑みを漏らし、すぐ隣から私の肩に腕を伸ばしてくる。
彼の愛用している香水が心地よく私の鼻腔を刺激した。
ゆうに四人座れる大きなソファの向かい側には一人掛けようのソファが二つもあるのに、彼は私の隣に座り、ぴったりと身を寄せてくる。
そのままぎゅっと抱き寄せられて、彼はカップをテーブルに置くと私の頬に口付けてくる。
「ちょっと!」と咎めて、私は彼をぎゅぅと押し戻した。
彼は心外そうに眉をしかめると、
「せっかく二人きりなんだぜ?しかもこんなにイイ女と。手を出したくならない男なんていねぇよ」
と、真剣な表情で私を見据えてきた。
左右で違う色を持つ切れ長の瞳はまっすぐに私に向けられ、意思の強そうな薄い唇がきゅっと結ばれている。
私が押し戻す手の力を緩めると、彼は私を覗き込んできて
―――唐突に口付けをしてきた。
上品なコーヒーの香りと、僅かな苦味を唇に感じる。
初めて会ったときのあの、奪うような激しいものじゃない。
触れるだけの―――優しい口付け。
彼の唇はすぐに離れた。
だけど至近距離にある顔は遠のいてはいかない。
「啓人―――」
私は彼の名前を呼んで、その形のいい唇をそっと指でなぞった。