Addict -中毒-
いつもの恵比寿のバーのあるホテルのエレベーターの中で、
私たちは今までにないほど激しく抱き合い、口付けを交わした。
彼の濡れたスーツや、体、髪から雨の匂いがしたけれど、それに混じって彼の愛用している香水が心地よく鼻腔をくすぐる。
そして同じように雨に濡れた私の体からもアディクトが香り、体温と同じように微妙な割合で溶け合っている。
彼の冷たい体温を体いっぱいで抱きしめ、彼の冷たい唇を激しく求めた。
客室の階に到着しても、私たちはしばらくの間抱き合いながら口付けをして無言で唇を離すと、そのまま手を握り、
チェックインしたホテルの一室に
入った。
部屋に入っても、彼は明かりをつけようとはせず、もともと点いていたトーンダウンしたナイトランプだけで私の顔を認めると、
再び抱き寄せられ、口付けをされた。
「体…冷たいわ。このままじゃ風邪引いちゃう。シャワーを浴びてきなさいよ」
私が言うと、彼は真剣な目で私を見つめ返し私の両肩を抱いた。
「紫利さん、あっためてよ。そしたら風邪引かない」
ぎゅっと抱きしめられ、深い口付けをされる。
あっためてあげたい。彼の冷え切った体も……心も……
そう―――彼の心はあの冷たい雨と同様
冷え切っているのだ。
舌を絡められ、熱い吐息を漏らしながら、私はぼんやりと彼を見上げた。
「どうなっても知らないわよ?」
「どうにでもしてよ」
彼はちょっとだけ寂しそうに笑った。
私は彼の冷たい唇をそっとなぞると、
「ばかね。それは女の台詞でしょ?」
ちょっと微笑みかけると、彼は私の手を取りベッドに歩いていった。