Addict -中毒-
「えぇ!?とうとう!?」
啓人と泊ったホテルのラウンジでコーヒーを飲みながら、萌羽が目を開いた。
昨日の甘い余韻を冷ますため…洗い流すため……わざと冷ためのシャワーを浴びると、昨夜の情事をゆっくり思い出すことはなく、
蒼介にどんな言い訳しよう、どんな顔をして会おう。
と、途端に冷静になった。
とりあえず萌羽を捕まえなきゃ。あの子に全て打ち明けて、何とか口裏を合わせてもらわなきゃ。
まぁ蒼介と萌羽が顔を合わせることはないと思うけど、念のために。
携帯を開くと、そのときはじめて蒼介から何度も着信があったことに気付く。
メールも入っていた。内容はどれも“こんな台風のときに大丈夫?”という内容の私の身を案ずるものばかり。
少しも疑っている様子はなかった。
そのことに安堵しつつ申し訳ない気持ちを抱いたが、それでも私は慌てて萌羽に電話をした。
彼女は丁度アフター帰りで、今から帰るというところだった。
タイミングの良さにほっと胸を撫で下ろしつつも、それでもやっぱり昨夜のことを話すときは変に緊張した。
タバコをくわえた萌羽は大きく煙を吐き出すと、
「で、どうするの?」とちょっと眉を寄せた。
「どうするも何も、どうもしないわよ」
そっけなく言うと、私は萌羽のシガレットケースに手を伸ばした。
「一本もらうわね」
断りを入れて一本抜き出すと、萌羽は珍しそうに目を細めた。
私は愛煙家ではないけれど、まったく吸ったことがないというわけではない。
止めてもう5年以上は経つけれど、ひょんな拍子に吸いたくなる。
タバコに火を灯すと、
「彼とはもう会わない。昨夜は一時の気の迷いだったわ」とそっけなく答えた。