Addict -中毒-
「気の迷い……ねぇ」
萌羽は意味深に低く囁くと、短くなったタバコを灰皿に押し付けた。
私がちょっと顔を上げると、
「姉さん、本当にそれでいいの?」
と、ちょっと眉を寄せ寂しそうに笑った。
萌羽が何を言いたいのか分かって、私はちょっと眉間に皺を寄せる。
「蒼介と離婚してその男についていけって言うの?冗談言わないでよ」
「そんな極端な話じゃないわよ」
萌羽は心外そうに表情を歪めると、間を置かずにもう一本タバコを取り出した。
苛々とライターをこする音がしたけど、彼女の苛立ちを増長させるみたいに炎は一向につかない。
諦めたのか、彼女は乱暴にライターをテーブルに投げ置いた。
タバコをくわえたまま私もため息を吐いて、ちょっと萌羽に顔を寄せると、彼女の頬をぐいと包んだ。
一瞬びっくりしたように、萌羽が目をまばたき―――それでもすぐに互いのタバコの先が重なっているのを見ると、ゆっくりと息を吸った。
くっついたタバコの先に火が灯り、
「貰い火なんてはじめて……」とちょっとはにかみながら萌羽は笑った。
「姉さん、お客さんに良くやるの?」
と、話題が何となく逸れた。
「まさか。私に日常的にタバコを吸う習慣はないわ」
蒼介は知っているけれど、啓人は知らない筈―――……
思えば彼は私の何を知ってるというのだろう。
たぶんほとんど……知らないわね。