Addict -中毒-
近くにある高級な寿司屋で握りの上を三人前注文し、届いた桶を食卓に並べて私たちは食事を始めた。
思えば、この三人で食事をするのははじめてかもしれない。
「明日だったよね。パーティー」
マグロの赤身の握りを食べながら、蒼介が切り出した。
蒼介はトロが苦手なのだ。
「ええ。藤沢にあるホテルを一軒まるまる貸切にするみたい」
「藤沢かぁ。随分遠いね」
「パーティーは夕方18時からのスタートだから、その日は萌羽とそのホテルで一泊するつもりよ」
私は隣で平目のエンガワを食べている萌羽に、にっこり笑いかけた。
蒼介にはその旨を伝えてあるので確認のために言ったのだ。
「上流階級のパーティーなんてはじめてで、今から緊張しているんです」萌羽は恥ずかしそうに笑って、それでも
「月香姉さんが一緒に居てくれてほんとに良かった~」と、演技ではない安堵の息を漏らした。
「大げさね。同じ人間じゃない。神流会長も気さくでお優しい方よ。変に力むことはないわ。いつもどおり、ね」
萌羽の肩を軽く叩くと、萌羽はほんのちょっと安心したのか、優しい笑みを私に向けてきた。
その様子を向かい側で見ていた蒼介は、
「君たちは本当に仲がいいね。まるで本当の姉妹のようだ」とぎこちなく笑った。
「良く言われるんです」と萌羽が愛想笑いを浮かべ、
最初はどうなるかと思いきや、やはり話上手の萌羽のお陰でムードは盛り下がることなく、食事を楽しむことができた。
その後食後のコーヒーを飲んで、
「それじゃ、姉さん。明日は11時半に迎えに来るわね~」
と手を振って、彼女は自分のマンションに帰っていった。