Addict -中毒-
強張ったまま顔を上げると、啓人はうっすらと笑っていた。
まるで私の内心を見透かすような笑顔だ。
「―――って呼ばれてるの?旦那から」
私はきゅっと唇を結ぶと、手すりの上で拳を握った。
爪が食い込んで痛いぐらいだ。せっかくネイルサロンで綺麗にしてもらったって言うのに…
「あんたには関係ないでしょ」
かろうじて言えた言葉が耳の奥で反芻している。
「萌羽に言っておくわ。こんな酷い男やめなさいって。ろくでもないわ」
吐き捨てるように言って、私は苛々と踵を返した。
会場に戻るつもりでいる。
酷いオトコ。
意地悪で、嘘つきで、生意気で、
だけど愛おしいオトコ。
「待てよ」
啓人は私の手を強引に掴んで、引き寄せた。
力なんて比べ物にならない。
私の抵抗なんてあっけなく、私は彼の胸に抱かれていた。
彼の香りを体いっぱいに感じて、彼の鼓動を身近に感じた。
彼の温もりを―――
全てがあの雨の日に感じたものと
同じだった。