Addict -中毒-


「なるほどねぇ」


啓人はくすっと喉の奥で笑った。


何か言いたそうに口を開きかけたけれど、結局言葉には出さなかった。


居心地の悪い何かひっかかりのものを感じたけれど、私もその感情を口にはしなかった。


お互い何か思うところがあったのにも関わらず、私たちは黙り込んだ。


啓人はタバコを吸い終えているのに、会場に戻ろうとしない。


私も同じ―――




二人して外をぼんやりと眺めていると、


ホテルの前の道路に車の赤いテールランプの光が流れている。




赤は―――危険信号。



その色が意味するのは――― “止まれ”





今ならまだ


間に合うかもしれない。


まだ―――


これが私の最後の引き返し地点だった。



最後の……






「紫利」







ふいに名前を呼ばれて、私の中の“止まれ”の警告が―――




音を立てて崩れていった。







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