Addict -中毒-


―――


「いい部屋ね」


彼がとっていた部屋は最上階のスウィートルームで、一人で泊るには広すぎるほどの広さだった。


恵比寿のホテルも結構なものだったけれど、こっちはちょっとクラシカルな雰囲気があって落ち着いた印象だ。


大きな窓からバルコニーが広がっていて、そこから外を眺めるとまるでお姫様になった気分。


そう漏らすと、


「お姫様なんて、可愛いね」と啓人が後ろから私の首にチュッとキスを落とした。


「不思議だな、紫利さんは。大人の女のようなことを言うと思ったら、時々中学生みたいに可愛くなる」


彼の掌が私の前に回されて、帯の辺りできゅっと抱きしめられる。


「中学生?私もまだまだいけるわね」なんて微笑を漏らすと、


「全然イケるよ。何せ俺がナンパしたぐらいだから」


耳元に顔を寄せられて甘い言葉が耳の奥をくすぐる。


「あんた何様のつもり?」冗談めかして笑うと私は啓人の手を引き剥がし、少しだけ乱暴な素振りで払った。


振り返って啓人を見上げると、啓人は軽く肩を竦めて微笑を湛えていた。


「何様って…?そうだな。そんな質問されたことないから、答えようがねぇな」


私は啓人の唇を指差すと、


「お子様、俺様」


と、悪戯っぽく笑ってやった。


啓人は私の言葉にちょっとだけ怒り出すかと思ったけど、予想に反して甘い微笑を浮かべた。


その魅惑的な赤い舌をのぞかせて私の指先を僅かに舐め上げる。


指先から痺れのような快感が全身を駆け抜け、私は手を離した。


今さらこれが不道徳だとは思わない。


覚悟を決めたら、あとはまるで坂を転げるようにいけない道を下っていく。




啓人と二人―――






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