Addict -中毒-


その先に幸せがないことも知っている。充分過ぎるぐらい分かっている。


ただ今は―――


何もかも忘れて夢中に抱き合うのもいいけど、私は久しく忘れかけていた恋の駆け引きを少しだけ愉しんでいた。


男と女の―――


先のない未来だからこそ、こんな危険な道を遡っていける。


押したり、引いたり―――


五歳年下のあんたは、私のその駆け引きにどう乗ってくる?


啓人は私の手を名残惜しそうに見つめていたけれど、私はその手を抜き取った。


彼は強引に私を引き寄せることなく、私の手をあっさりと離した。


ぐるりと辺りを見渡すと、アンティーク風のチェストの上には年代物のウィスキーやワインのボトルがずらりと並んでいた。


マダム・バタフライでも目にしたことがある。どれも高級品で、中にはボトルを入れるだけで一夜で何百万とはじき出す代物もあった。


まるで浮世離れしたその光景に、この雰囲気に、アルコールを入れなくても酔ってしまいそうだ。


「まあ、素敵」


やや大げさな素振りで、そのボトルたちを眺めていると、壁に背を任せて腕を組みながら啓人は皮肉げに笑った。


「全部もらい物だ。一杯どう?」


「いいわね。どれがお勧め?」


啓人は顎に手を当てると片方の眉をひそめながら、「うーん」と考え込んだ。


どのお酒を選ぶのか、その人柄や性格が出る。


長年そうゆうやり取りをしてきた私の経験の前にあなたはどうでるかしら?






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