Addict -中毒-
どれぐらいそうやって二人して空を眺めていただろう。
深い瑠璃色が赤みを押し出すように顔を見せ始めた頃、私たちは何となく歩き出した。
「これからどこ行く?」
さも当たり前かのように聞かれて、私は戸惑った。
まぁ私だって最初からそのつもりで居たけれど、この先にどこへ行くかは考えていなかった。
すぐにホテルと言う気分にもなれない。
あの美しい空の光景を見たあとだから尚更。
私の中で体を重ねると言うよりも、心を重ねる素晴らしさをはじめて知ったような興奮…と言うか感動がくすぶっていて、
その気分にはなれなかった。
啓人はそんな私の心情を知ってか知らずか、私の手を力強く引き、
「大人のデートは今日はおしまい♪高校生チックなデートしようぜ~」
いつも見せる色っぽい微笑ではなく、少年のような無邪気な笑顔で私を覗き込んでくる。
「高校生の……?」
「そ。公園でまったりお喋りしたり~、買う気もないのにふらふらウィンドウショッピングしたり、カラオケ行ったり~、ボーリングってのもいいね♪
んで、その後はファーストフードでハンバーガ♪定番じゃね?」
公園でまったり?カラオケ?ファーストフード?
どれもが啓人に似つかわしくなくて、私は思わず笑った。
「どうしちゃったのよ、急に」
「だって俺は紫利さんから見たらガキだもん」
啓人は意地悪く笑って舌を出す。
その赤い舌が、自分をガキと言う男のものとは思えないほど大人の色気をかもし出していて色っぽい。
思わずドキリと心臓が鳴り、それでもその提案は嬉しかった。
体を重ねなくても―――繋がっていられる
そう思えたから。