Addict -中毒-
もしかしたら啓人も、あの淡い紫色の空を見て、私と同じことを思ったのかもしれない。
そんな風に思った。
「どこ行く~?」と再び車に乗り込み、運転席で楽しそうにしている啓人は
やっぱり少年のようにあどけなく、だけど大人の男が見せる色っぽいものを含んでいる。
そのアンバランスな色気が―――危うくも美しい。
「どこへ行くって私に聞く?あんたの方が高校生に近い年齢なんだから」
「て言っても俺、卒業して八年よ?もう忘れたって」
「いいじゃない、私なんて十二年よ。干支が一周できるわ」
「「…………」」
言ってて虚しくなってきた。二人してがくりと項垂れる。
啓人は、苦笑いでハンドルを握る。
「あのときはさ~、何でもできる気がしたんだよね。若いってすっげぇよな。
でも実際選挙権もないし、厳密に言うとタバコや酒も法律では禁止されてるだろ?つっても俺が法律を守るようないい子ちゃんしてたわけじゃないけど。
大人になって気付くんだよな、今は当たり前のようにやってることが、昔ではできなかったことがあるってことに」
「例えば?」
「例えば、車の運転とか?免許は18で取ったけど、自分の車を持つのはその数年後だったし。
金や時間の使い方も変わった。
金は昔より多く使うようになったけど、代わりに時間は減っていってる。
リアルに老化を感じるし、少しの時間も無駄にできない。常に追われて、せかせかしてる」
啓人はまるで他人事のようにさらりと言って、軽く肩をすくめる。
だけど、啓人の言っていることは私も実感してることで他人事のように思えなかった。
ただ、当たり前のようにときに身を委ねていたから、そう言われると改めて実感する。
「だからさ、今を大事にしなきゃ。
隣に極上の女を乗せてるってワケだから、それを至極の喜びに思わないとな♪」
啓人は白い歯を見せて、笑った。
私は啓人の高校生時代を知らないけれど、きっと今みたいに笑っていたに違いない。
その輝くような―――きらきらと眩しい、
太陽のような笑顔で。