Addict -中毒-
啓人の言葉を聞いて、何だか急に気にしていることがバカバカしく思えた。
「そうね、そうよね」
自分に言い聞かせるように頷いて、私もハンバーガーに口を付ける。
啓人がいいって言ってくれたら、私は他に何も望まない。
彼が連れ歩いていた可憐で美しく若い女たちを意識していた私。
それでも彼が私の方を少しでも見てくれたから、それだけで充分じゃない。
言い聞かせるように頷き続け、私はハンバーガーを口に入れた。
日本でのハンバーガーなんてここ数年食べてなかった気がする。
欧米に行けばファーストフード店は腐るほどある。旅行先で歩いて疲れきっていて、目に入った気軽に入れそうなお店。
味や価格も知ってるし、よっぽどのことが無い限りハズレを引かない。
はじめてアメリカのニューヨークへ旅行に出かけたとき、最初の夜にマクドナルドに入った。
あのときは東京とは比べ物にならないぐらいきらびやかで賑やかで、飲み込まれそうな大都市に圧倒され、
おまけに一人旅だったから分からないことだらけで、
気持ちも体も疲れきっていた。
良い街だったけれど住むには無理ね。そんな想いで食べたハンバーガーは
思いのほかおいしかった。
あのときと同じ。
疲れきった体に、まるで砂漠のオアシスかのごとく癒されたのは、
覚えのあるこのどこか懐かしい味。
ううん、きっとこの状況に安心しているんだ。
歳を重ねることに少し恐ろしさを感じながらも、それに抗えず日々が淡々と過ぎてゆく。
でも流れるときの中に、変わらないものも存在するのだ。
私の生き方を「別に悪いことじゃない」と言ってくれる啓人が、
この先変わらず隣に居てくれることを、
私は心の隅でひそかに願っている。