Addict -中毒-


白いもやのような……いいえベールって言った方がロマンチックかしらね。


カーテンを張ったような窓の外の異変に気付いたのは、私が先だった。


「……ねぇ、ちょっと…変じゃない?」


私が身を起こして窓にそっと手を置くと、


「変て?UFOのお迎えでも来た?その前に救急車か。この寒さだ?誰かが凍え死にそうになってんのかも」


と啓人は私の話を不真面目に聞き流して軽く笑っている。


「違うわよ」


そっけなく否定して窓に手をやると、キュッキュと窓を指先でこすった。


刺す様な冷たさを指先で感じて、慌てて指を引っ込める。外は相当冷え込んでいるようだ。


私がこすった場所だけ白い景色が晴れ、窓の外を映し出す。


無機質な灰色のコインパーキングの壁が視界に入り、その壁の前をちらちらと白いものが舞い降りていた。







「雪………」







ぽつりとつぶやくと啓人も起き上がってきた。


「ぅわ。マジで。どうりで冷えるはずだ~」


この冬はじめての雪に―――驚きよりも何故か嬉しさの方がまさった。


まるで童心に戻ったようにわくわくと胸をときめかせ、それは新たな何かをもたらせてくれる希望の欠片のように思えた。


だけどそれはほんの一瞬で―――…


ひらりと窓に舞い落ちた雪の欠片は、車の熱ですぐに溶けて水へと還っていく。






その儚い命は






真夏に一晩だけ鮮やかに咲き誇る





月下美人。






雪は真冬の―――月下美人なのだ。






この恋と同じ








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