Addict -中毒-


啓人がシートを倒す。


私もそれにならってシートをゆっくりとシートを倒し、横たわった。


センターアームレストを挟んで手を繋いだまま私はちらりと啓人の横顔を見た。


スポーツシートで身動きとり辛いけれど、何とか横を向くと啓人は仰向けになって目を閉じていた。


目を閉じてはいるようだけど、眠ってはいないだろう。


「啓人」


私が呼びかけると、啓人はゆっくりと目を開けて顔だけをこちらに向けてきた。


ごろりと横を向いて、薄く笑う。


「どうした?」


「……ううん。ただちょっと呼んでみたかっただけ」


「何だよ、それ」


啓人が笑う。


啓人の笑い声を聞きながら、


くしゅん


私は小さくくしゃみをして開いた方の手で肩を撫でさすった。


真冬とはいかずとも、さすがに12月半ばの夜中はいくら暖房を入れた車内とは言え冷え込む。


「大丈夫?俺の上着着る?」


コートを着たままでも寒そうにしている私を見て、啓人はちょっと心配そうに眉を寄せ僅かに身を起こした。


スーツの上着を脱ぐつもりだろうか。


「いえ。大丈夫よ。そんなことしたら今度はあなたが風邪ひいちゃう」


「大丈夫だってこれぐらい。俺体温高いのヨ」


啓人は無邪気に笑って、私の上に上着を掛けてくれる。


体温高い―――……知ってる。


あなたの肌はいつだって灼熱の太陽のような熱い熱を含んでいる。その熱い手で触れられると、火傷をすると分かっていれも


求められずにはいられない。


「ついでに暖房強めるか」


啓人がわずかに屈んで暖房のキーに手を触れた。


外の冷気と車内の暖かい温度差が、窓を白く染め上げている。


まるでスモークを張ったように……外界から遮断するかのように、周りは一面の白い色を張っていた。


偶発的に出来あがった景色だろうけど、どこか異世界に居るように思う。



啓人とたった二人―――




この小さな世界で、手を繋ぎあって。




いくら寒いからと言っても、東京の冬だ。息も凍るような北の国ならまだしも


凍え死ぬなんてことはないだろう。





それでも



このまま二人で死ねたら―――




とさえ思ってしまうのは、




白が死装束の色であるからか―――





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