Addict -中毒-
私は慌てて電話を耳に近づける。
「なに?」
そっけなく返したけれど、本当はまだ彼の声が聞けることにちょっと嬉しさを感じていた。
『これ、俺の番号だから。登録よろしくね♪紫利さん』
彼は楽しそうに言うと、通話は一方的に切れた。
言われなくてもそうするつもりよ。
私は通話の切れた携帯を見下ろして、小さくため息を吐いた。
窓の外を眺めると
そこは深い青色を宿した東京の朝の光景が広がっていた。
日の出前と日の入り後の、空が濃い青色に染まる時間帯。
光の波長よりも小さいサイズの粒子による光の散乱。太陽光が大気で散乱されて、空が青くみえるのはレイリー散乱によるものだ。
ブルーアワー
私がこの目にこの現象を見たのはこれが最初で最後。
私の秘密を抱えた深い青色の向こう側に、これから迎える期待と希望を滲ませた淡い紫色が見える。
その色は物理的に説明されるレイリー錯乱でもない。
そう
私の気持ちも物理的に説明がつかない。
こんなに危うくて、それでいて心焦がすような複雑な気持ち。
それを空が表しているようだった。
このブルーアワーは私の行く末を現しているのか
それとも転落の末路を描いているのか
私には分からなかった。