Addict -中毒-


萌羽は口が堅い。不用意に人の隠し事を誰かに話すという無粋なことはしない。


私が信用できる数少ない人物の一人だ。


最初から包み隠さず何もかも話していたのなら、こんなややこしい事態にならなかったかもしれない。


そのときに的確なアドバイスをもらっていたら―――と、後悔するももう遅い。


壁掛け時計の秒針は容赦なく、待ち合わせの時間に近づく。


萌羽は私の話を聞くと、びっくりしたように目を丸めた。


「それで、デートするの!」


「デートだけよ。ハンカチを返してもらわなきゃ、だしね。別にやましいことなんてないわ」


「それにしてもこの服…姉さん、かなり本気モードじゃない」


萌羽はちょっと羨ましそうに笑った。


萌羽の言葉を否定できない。


それが何を意味するのか、その先に何が待ち受けているのか、恐ろしくて口には出来ないけれど。


「いいんじゃない?たまには。旦那さん相変わらず帰って来ないんでしょ?案外そっちも楽しんでたりして」


「バカなこと言わないでちょうだい。蒼介にそんなことできるわけないわよ」


「あ~、はいはい」


萌羽はカラカラ笑って手をひらひらさせた。


でも……


そうね。


もし、蒼介にそうゆう人が居たのなら、私もちょっとは救われるかも。


そんなバカげた考えに、嫌気がさす。




なんて都合のいい女。


今の私を鏡に映し出したら、愛欲にまみれ、ひどく醜く歪んだ顔をしているに違いない。




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