Addict -中毒-


蒼介は細い顎に手をかけて、考えるように首を傾けた。


私の中に緊張が生まれ、握った掌の中にじっとりと汗が浮かんだ。


何を考えてるのだろう。そんな不安が私の心臓をぎゅっと縮めた。


蒼介は「もえは…もえは……」と口の中で呟いて、やがて記憶の中の人物像と合点がいったように、手をぽんと打った。


「思い出した。僕はあんまり喋ったことがないけど、あの背の高い…」


「そうそう」


頷いて、私は握った掌をそっと解いた。


ほっと安堵のため息が出て、慌てて背筋を伸ばす。


蒼介は私の手の中からコートを取って、


「綺麗な人だったよね。彼女は今もお店に?」と言って蒼介はリビングに向かって歩き出した。


「ええ。今はお店の№1よ」


「華やかな世界だけど、色々大変そうだよね」と蒼介はまるで異世界を見るような口調で言った。


それには私は何も答えずに、


「何か食べた?食べてなかったら今から作るけど」


「少し食べてきた」とコートを握って、蒼介はちょっと寂しそうに笑った。


その笑顔にドキリ…とする。


いい意味での緊張ではない、それは彼に対して申し訳ないと言う後ろめたさから。


「お風呂も入ったみたいね。もう寝る?」


「うん。でもその前にちょっと付き合ってくれないか?」







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