朝が待てなくて

「こいつはやっぱりバカなんだよ」


隣で祐二さんがぽつりと言った。


「仕事ゆずってもらった俺が言えた義理じゃねーけどさ」


それから祐二さんはひざのところでギュッと両手を組む。




「樹はいつも他人の苦労まで背負い込んでる。なんの得にもなんねーのにさ」


命がけで見知らぬ人を救ったり
祐二さんの代わりに仕事を辞めちゃったり
他人の借金をかぶったり……。




「だからな、まこっちゃん。こいつといたら一生苦労が絶えないと思うよ」


なんて祐二さんは言う。




「だけど俺、こいつのためならひと肌もふた肌も脱ぐってやつ、何人も知ってるから。バカでお人好しで優しくて強くて……そんな樹のためなら何でもするってやつ、いっぱい知ってるから」



そう言った祐二さんの声がかすかに震えていた。


< 733 / 771 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop