ありふれた恋を。
◆第四章◆
普通生徒の選択。
弘人さんが帰ってこない。
久しぶりに作った料理も、すっかり冷めてしまった。
待ってると言ったのは弘人さんの方なのに。
電話をかけても繋がらないし、会議が長引いたと思うには時間が経ち過ぎている。
もう何度目かの電話も留守電に切り替わり、ソファーに投げつけるようにスマホを放った。
伊吹くんと公園で過ごしたあの日から、弘人さんとどんな顔をして会えば良いのか分からずに少し距離を置いてしまっている。
伊吹くんはすぐには答えを出さなくても良いと言って、だけどまた一緒に帰ってほしいと言った。
自分の気持ちが揺らいでしまったのは、弘人さんとちゃんと向き合っていないからだ。
今日部屋へ来てほしいと言われて、前の彼女さんへの気持ちがもう残っていないのかちゃんと確かめようと決めた。
それで本当に信じられたら、私はもう絶対に弘人さんから離れない。
そのとき不意にスマホの着信音が鳴り響き、弾かれたように電話に出る。
『夏波?』
「お兄ちゃん。」
聞こえてきた声は弘人さんのものじゃなくて、久しぶりに聞くお兄ちゃんのものだった。