ありふれた恋を。
『どこ行ってたんだよ。心配するだろ。』
苦しいくらいに抱き締められて息ができない。
「心配したのは私の方だよ…。」
『ごめん、遅くなって。』
右手を背中、左手を私の頭に置いた弘人さんの力が緩む気配はない。
ぎゅっと、ぎゅっと、すがろうとしているのは私じゃなくて弘人さんかもしれないと思う程に強い。
「弘人さん、何かあった…?」
何があったのか、知っているようで知らない。
お兄ちゃんが見たことはきっとほんの一部でしかないはずだから。
『俺には夏波しか居ないって気付いた。』
もう何度も、こんな言葉を聞いてきた気がする。
弘人さんはいつだって、1番教えてほしい部分を自分の中だけで完結させてしまって口に出すことをしない。
「ちゃんと言ってくれなきゃ分かんない。何があってどうしてそう思うようになったのか、ちゃんと伝えてくれなきゃ分かんないよ。」
弘人さんの言葉を信じることはできるけど、もっと確信を持たせてほしい。
その一言にすがる必要もないくらいの、はっきりとした確証を。