ありふれた恋を。
『瑠未さん。』
重い沈黙を破ったのは夏波だった。
静かな部屋に響く声はもう震えていなくて、はっきりとした輪郭を持っていた。
名前を呼ばれたことが意外だったのか、瑠未が少し戸惑った顔で視線を夏波に移す。
『弘人さんを解放してあげてください。』
今まで強気だった瑠未の表情が、何かで殴られたように固まった。
『お願いします。』
そう頭を下げた夏波の髪がサラサラと流れる。
その様子を、俺も瑠未も無言で見つめていた。
解放。
夏波が言ったその一言に撃ち抜かれていたのは、瑠未だけじゃない。
そうか、俺は解放してほしかったんだ。
俺を縛り続ける瑠未から、過去から、解放されたかったんだ。
『私…本当に好きだったんだよ。』
明らかにトーンが変わった瑠未の声に夏波が顔を上げる。
『弘人のこと、本当に好きだった。』
ポロポロと涙を流しながら、瑠未は両手で顔を覆った。