HOPE
 きっと、私の左腕の傷に気を使ってくれたんだと思う。
「これ……」
「ほら、俺とお揃い」
 無邪気な顔で、左腕に着けたリストバンドを見せる。
 つい笑ってしまった。
「今時、お揃いなんて……」
「あ、笑うなよ」
 綾人君は少しだけ照れた顔をする。
「でも、ありがとう。大事にするね」
「ああ」
 その笑顔を見るだけで、勇気付けられる。
綾人君となら、どんな困難も乗り越えていける。
そんな気がしていた。
それでも、現実は甘くない。
 家に帰ると、母さんはどこかの知らない男の人を連れていた。
 二十代後半くらいだろうか。
 年齢独特のいやらしい目で、男は私を見ていた。
「沙耶子。この人、今日はうちに泊まってくから」
「……うん」
 何も言えなかった。
 下手に何かを言えば、また暴力を振るわれるからだ。
 母さんの暴力に怯えて、何も出来ない無力な自分が、情けなくてたまらなかった。


その日の深夜。
 自室でガタガタと物音がするので目を開けてみると、目の前には母さんが連れて来た男がいた。
「あ、あ……」
 男は私の悲鳴が出る寸前の口を片手で塞ぎ、もう片方の手で私の両腕を掴んだ。
 荒い息を吐きながら言う。
「大人しくしてろよ。そうすれば、痛くしないからさあ」
 悲鳴も上げられなければ、身動きもとれない。
 最悪な状況だ。
「借金があるんだろ。俺がその借金を肩代わりしてやってもいいんだぜ」
「?」
「ただし、今から俺の言う事を全部聞いてくれたらな!」
 私は男に怯えながらも、その要求を承諾してしまった。


「まったく、中学生がこんな事を平気でするなんてなあ。『借金を返して普通の生活?』 ハハハ、笑わせんなよ。俺みたいな奴とこんな事をして、元に戻れる訳ないだろ。バーカ」
< 18 / 151 >

この作品をシェア

pagetop