HOPE
「どうして俺なんだ?」
「だって、宮久保さんと一番仲良いのは烏丸君じゃん」
 そんな理由で、宮久保の分の給食が乗ったトレイを笑顔で押し付けられた。
 まったく、本当に良い迷惑だ。
 保健室のドアを軽くノックして、中に入る。
 先生はいない様だ。
 ベットのカーテンが閉まっている事を察するに、宮久保が寝ているのだろう。
 とりあえず、近場の机にトレイを置いた。
 さて、やる事はやった。
 教室へ戻ろう。
 そう思った時だ。
 カーテンが開き、中から宮久保が出て来た。
 驚いた様な表情を浮かべ、俺を見るなり彼女は目を反らす。
 どうにも話しづらいな。
「もう大丈夫なのか?」
「……大丈夫」
「そうか。お前の分の給食を持って来たんだけど、食えるか?」
「……少しだけなら」
 宮久保は椅子に座り、箸に少量のご飯を摘まみ、ゆっくりと食べ始める。
 給食は届けたし、もう教室に戻っても大丈夫だろう。
「じゃあ、俺は教室に戻るよ」
 そう言い掛けた時、彼女の箸は止まっていた。
 見ると、宮久保は俯き涙を浮かべている。
 何か泣かせる様な事をしただろうか。
 そんな覚えはない。
「ちょっ……どうした? 大丈夫か?」
「……ごめんなさい」
 震えるか細い声で彼女は、そう連呼し続けた。

 保健室にあったティッシュで涙を拭かせ、宮久保を落ち着かせた。
「何か……嫌な事でもあったのか? 悩みがあるんなら、言ってみろよ」
「でも……」
 本当に鈍臭い奴だ。
 しかし、ここで怒鳴ったりしたら、もう顔も遭わせられそうにない。
 俺は不器用にも笑って見せた。
「話して、楽になる事もあるんだからさ」
「これから、この学校にいられる自信がなくて……」
「どうして?」
< 94 / 151 >

この作品をシェア

pagetop