【短編】失った温もり
「いつもの」


そう言いながら、椅子に腰掛けシモンの表情を窺う。
視線が合うと、シモンは返事を声に出さずに僅かに頷いただけだった。


静かに置かれたグラスの横に、コトッと小さな音をシモンは残していった。


「シモン! これは……」


「お忘れ物ですよ」


カウンターに置かれたリング。
無意識に左手の薬指を確認する自分がいた。


後悔の象徴。

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