黒醋-クロス
クロス
かしゃん、と何かが滑り落ちる音がした。
すべて、其れが始まりだった。
ザーザー降しきる雨の中傘もささずに
空を見上げてる男がいた。
肩まで伸ばした髪に目は虚ろでどこか悲しげだ。
「あの・・・これ落としましたよ?」
呼びかけても返事は返ってこない。
私の手の中には十字がクロスになった
ネックレスが握られてる。
「あの・・・?」
軽くため息をつきその人の手をとり
ネックレスと自分の傘を握らせ離れた。
何か言われるかしばらく眺めたが上の空のままだった。
仕方なくその場を離れた。
なによ、お礼ぐらい言ってくれてもいいのに。
鞄を頭にかざし早足で歩く。
一度とまりあの人が眺めていた空を見た。
「・・・雨、早くやまないかなぁ・・」
もしかしたあの人あの人も同じ事を思っていたのかもしれない。