龍とわたしと裏庭で③【黒魔術編】

アロマキャンドルの甘ったるい匂いがする。

むせ返るようなローズ系の匂い


「これはまた悪趣味だな」

圭吾さんが言った。


黒い暗幕で壁も窓も覆われた暗い部屋を、燭台のロウソクの火がユラユラと照らし出していた。

つやつやと赤みがかった色の木のフローリングも灯を受けて光っている。

部屋の奥の黒い布で覆われた細長いテーブルには深紅のバラ。


そして


彼女がいた


黒いレースのワンピースを身にまとい、婉然と微笑んで背もたれの高い椅子に腰掛けている。


あの日と全然違う顔


でも、あの人に間違いない


「ようこそ。長いこと待っていたのよ、志鶴ちゃん」


この声


間違いない


「その男の手を離してこちらへいらっしゃい」


圭吾さんの指に力がこもる。


「心を強く持って」

圭吾さんが言う。


「無駄よ」

彼女が嘲笑うように言う。

「その娘が何年間わたくしの呪縛の中にいると思うの? 昨日今日愛をささやいた程度の男にその呪詛が解けるとでも?」


「それなら、なぜ何年も志鶴を手に入れなかった?」


「お前には関係ないわ――さあ志鶴、こちらへいらっしゃい。隠れるのよ。人は怖いでしょう?」


わたしは圭吾さんの手を振り払おうとした。

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