ミッドナイトレイン
「あー、ビールがうめぇ!!」
「せんせー、親父がいまーす」

敦君が、空になったグラスをコースターへ置きながら心底美味しそうに目を細める
そんな敦くんを茶化しながらチラリと横目で彼の横顔を見た
いつもそう
茶化したり、一緒に馬鹿やったり
「バイトのちょっと仲の良い同期」を演じながら
あたしは彼に恋している
いつもこうやって横顔を盗み見て、ただ今ここに一緒に居られることが幸せなんだ

「あ、ごめんー電話だ」
「お、ケイコぉー男かぁ!?」
「違う違う、姉ちゃん姉ちゃん!!」

そう笑いながらケイコちゃんが店の外へとでていく
カウンターにはあたしと、敦が残った

「はー」
「ちょっと、二人になった瞬間にため息吐くなんて失礼なやつだね」
「違う違う!!」

そう。自分の顔の前で手をヒラヒラとふった彼の笑顔は
いつもと少しだけ違う気がして、胸がドキっとする
何て言うか、影がある

「何、何か疲れてんね」
「はは、最近眠れなくてさー」

明らかに苦笑を浮かべながら、敦くんはいつの間にか焼酎にかわっているグラスを傾けた
カラン、完全にグラスの中の焼酎を飲みきると氷の音が響く

「市販の薬飲んでんだよ、今」
「あー、睡眠導入財?あれあんまり良くないよ、癖になる」

彼の空いたグラスを手にとって、焼酎を造る
カラカラとマドラーを回しながら。もっと気の利いたことは言えないのかと心の中で突っ込みが聞こえた

「そうなんだよねー」
「…何か、悩みでもあるの?」

グラスと渡すと、敦君は「サンキュ」と呟いてそれを受け取る
そして同時に口に運ぶ
これ、言ってよかったんかな
確かにそこそこ仲良くはしてるけど、そんな相談とかするような間じゃぁない気もする
言っちゃったあとでモンモンと脳内で葛藤
私も、目の前の水割りと一気に口内へと流し込んだ


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