モラトリアムを抱きしめて
胸の前で握られていた手は、次に赤いカーディガンの裾を掴んでいた。

きっと汚れている事を気にしているのだろう。

「いいのよ、遠慮しないで」

少女と向かい合いゆっくり両手を引いてソファーまで連れてくると、少女はちょこんと浅く腰掛けた。

少女の手にはまだ千円札が大事そうに握られている。

一番気になった額の傷を見るために少女の前髪に触れると、砂と血が混じりあった赤黒い塊が手に付いた。

「痛かったでしょ?」

少女は返事をせずに、ただ下を向いていた。

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