モラトリアムを抱きしめて
その表情を見た私は何だかホッとして力がぬけた。途端に全身に寒さが伝わり、ガタガタと身震いしてしまう。

「とりあえず寒いから入って」

そう促し少女をリビングに招き入れた。さっきは気付かなかったけれど、エアコンのモヤッとした風が吹いている。

やっぱり覚えていないだけで、ここまでちゃんと歩いてきたのかもしれない。

そういえば少女の怪我……

と言うか少女は何故あの公園で倒れていたのだろう。聞いてもいいのかしら?いいわよね?

私は自問自答しながら薄暗い部屋に電気を点け、やかんを火に掛ける。

目線を少女に移すと立ったまま、胸のあたりで手をギュッと握っていた。

ドアの前から動かない少女に「こっち」と、私が寝ていたソファーに座るように言ったけれど頭を左右に振られてしまった。

「どうしたの?こっちにきて怪我の具合見せて?」


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