モラトリアムを抱きしめて
少女の向こうでは、白いソファーにココアが滴れ、床にポタポタと落ちていた。

白と茶色のコントラスト。

それが美しい滝を見ているような感覚に陥り、また時を止める。

もう一度ハッとしたのは、少女が両手で受話器に置かれた私の手を、一生懸命押えていた事だ。

じわっと少女に通う血を感じるように温かさが伝わってくる。

「どうした?」

ただならぬ少女の様子に驚きつつも、冷静に言葉がでたと思う。

下を向いた少女を覗き込むと、私の胸で泣くように顔を必死に左右に振っていた。

「――い、いや」

それは、少女が見せる数少ないリアクションの中で最も大きく、感情が表れているものだった。

小さな子どもではないけれど、大人でもない。そんな少女が子どもらしく見えた瞬間。


日はすっかり暮れて静寂の闇が、少女の小さな声を聴かせてくれた。


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