モラトリアムを抱きしめて
昨晩から続いていた頭の痛みは嘘のように消えていた。

この頭痛は昨晩だけではない。もうここ何年もなのだ。いつからだったか、なんて忘れてしまった。

昨晩のように朝まで眠れない事は珍しいけれど。

どこの病院でもはっきりした原因はわからず、今日もまた『精神的』や『ストレス』と言った言葉で終えられたのだった。

しかし今の生活でストレスを感じる事などなく、むしろ満足している。

五年前に結婚した夫も優しくて……。


――青空に夫を浮かべ、ハッとした。

空が綺麗すぎて、道の真ん中で立ち止まってしまった自分に気付いただけではない。

私は慌てて鞄から携帯を取出し、電源を入れた。

間に合うかしら……。


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