モラトリアムを抱きしめて
急いでいる時の呼び出し音というのは、何故だかゆっくりと聞こえ余計に焦ってしまう。

そして相手は案外、落ち着いているものである。

『もしもし?』

電話の向こうでゆっくりと落ち着いた夫の声がする。

「あ!よかった〜繋がった〜」

『そんなに慌てなくたって、昼過ぎだって言ったでしょ』

「そうだけど」

ここまで話してようやくホッとした。

いつの間にか、気持ちと同じくスタスタと歩いていたようで、気付けば駅の近くまで来ていた。

駅の向かいにある小さな公園から突き出た丸い時計は、まだ10時を過ぎたところである。

「ははっ、本当だ」


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