モラトリアムを抱きしめて
「はっちゃん……で、どうかしら?子どもっぽすぎる?」

安易なあだ名だが、私が幼い頃よく呼ばれていたと思う。

私の問い掛けにハツミはあからさまに困惑し、そのうち何か怖いものでも見たかのように、表情を固めてしまった。

何か嫌な思い出でもあるのだろうか。からかわれるような名前ではないと思うのだけど。

見るからに繊細そうな年頃のハツミだから、何かあるのかもしれない。

「嫌?やっぱり子どもっぽいわよね……」

自分の名前を呼ぶのは少々照れくさいが、これと言っていいあだ名も思いつかず、普通にハツミまたはハツミちゃんでいいかな、と思いはじめた頃。

「はっちゃんでいいよ」

諦めたのかと思えば吹っ切れたように、ハツミは言った。それどころか、どこか嬉しそうにさえ見えた。

少女が何を思い、何を考えていたのかは私にはわからないけれど、少女が望むなら、何度でもそう呼ぼうと思った。

< 30 / 109 >

この作品をシェア

pagetop