モラトリアムを抱きしめて
“――これうちのお姉ちゃんのだけど”

綺麗にカールされた髪の毛に派手なボタンのついたスーツ。

化粧がさっぱりしているからか、品があるように見える。

思い出した。

この人が浩子おばちゃんだ。

よくお下がりの服をくれたっけ。

“これはお土産”

そうそう。いつも手土産は甘い餡子の入った、どら焼。

おばちゃんが住んでる町の名産品だっけ。

小さい頃、おばちゃんが来るのが楽しみだったのを覚えている。


“姉さん、これ”

誰かが浩子おばちゃんに茶封筒を渡している。

誰?

顔がぼやけて出てこない。


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