モラトリアムを抱きしめて
スラッと細い後ろ姿。長い黒髪に柔らかい素材のスカートが揺れている。

“いつでもいいって言ったじゃない”

“いいのよ、お金が入ったから”

清楚な感じだろうか。

“それならこの子たちに……”

遠い記憶の浩子おばちゃんは、私を哀れむような目で見ていた。

“……まさか、このお金!”

数秒してハッと何かに気付いたかと思うと急に怒り出したのだ。

“しょうがないじゃない!”

“あんたは何でまた同じ事を……!”

掴み合う二人に割って入るのは……幼い私だった。


“やめて!二人とも!”

そうだ、


“やめてよ!お母さん!”

そうだ、この黒髪の人が



私の母親――




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