モラトリアムを抱きしめて
今朝ひっくり返してしまったクローゼットは整頓されていなかったけれど、その中でひっそりと隠れるように端に寄せられたそれはすぐにわかった。

黒く飾り気のない喪服。

ハンガーから外し、握り締めるように鞄に詰め込んだ。

これは復讐なのかもしれない。

恨んでも恨みきれない。

クローゼットの横にある姿見に写る私は、今朝の生き生きしていた私と別人だった。

顔が変わってしまったのかと思うほど。

目は据わり、頬は垂れ下がる。いくつか歳をとったように見える。

酷い顔。

こんな私を、夫は何と言うだろうか。

でも、やらなければ。やらなければ前に進めない。


もう、あの人の呪縛から解かれてもいいはずだ。


< 60 / 109 >

この作品をシェア

pagetop