モラトリアムを抱きしめて
今日は一段と寒い。開けたばかりの窓をすぐに閉め、少しずつ明るくなる空を眺めていた。

街の中心に近づいてくると、見覚えのある建物がいくつかある。

懐かしさはあまりない。

故郷にするには嫌な思い出がありすぎる。


小高い丘の上に建つ白い建物。

「あそこの病院までお願いします」

街で一番大きな総合病院。

浩子おばちゃんのメッセージを聞いた時、すぐにそこだとわかった。

「いい天気だ」

前のめりに丘の上を確かめた運転手は、青くなった空を見て言った。


本当だ、いい天気。


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