モラトリアムを抱きしめて
看護師にゆっくりと肩に手を置かれ、抱き締めるようにそっと母から離された。

そしてポケットから薄いピンク色をしたハンカチを取出し、私の手に握らせてくれる。

私が悲しくて泣いていると思っているのだろうか。悲しそうに私の涙を見ている。

私は悔しいのだ。

悔しくて、悔しくて、たまらない。

この女さえいなくなれば、死んだら、全てが終わると思っていた。

でも、全然終わってなんかない。

もっと嬉しくて、ホッとするはずだったのに。


何よりも喪失感がなくならない。


死んでもなお、この女の呪縛から解かれないなんて。



< 72 / 109 >

この作品をシェア

pagetop