モラトリアムを抱きしめて
涙が止まるのと一緒にカッとなっていた頭は、潮が引くように冷めていった。

ゆっくりと母に近づき、白い布をひらりとめくると、そこには変わらぬ母がいた。

化粧をされて、変わらず綺麗。

眠っているようだった。

思い出の中に眠っている母の姿はなかったけれど、眠っているようだった。

その顔を見ていると、怖いくらいの絶望感に襲われた。

寒気がする。

床にぺたっと座り込み、もう、どうしたらいいのかわからなかった。

復讐することも、許すことも。

何もできなくなってしまった。


「――初美ちゃん?」

止まってしまった時は、後ろからかけられた声で進められる。

ゆっくりと振り向くと、そこには母と同じくらいの歳の女性が立っていた。


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