モラトリアムを抱きしめて
それからすぐに母は葬儀屋によって運ばれた。

一番安くて小さなプランでいいと言った私におばちゃんは、「でも人並みには、ねえ?」と言って飾りを少し追加していた。

世間は勝手だ。

相手の立場や状況がわかった振りをして優しい言葉をかけ、自分が優位に立とうとする。

それでも、おばちゃんの事務的だけれどテキパキとした対応は身内の少ない私にとっては助かった。

本当はわかっている。

世間は優しい。

一般論や常識、世間体で人は沢山のプライドを守っている。

そんな事が何だって。そう言ってしまえる人間は、そんな事が叶わない人間をきっと知らない。

私に手を差し伸べてくれるのは、いつも世間だったから。


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