モラトリアムを抱きしめて
本当はわかっている。

この女に復讐したって意味がないという事も。

相手がいなければ、恨む理由がない事も。


そして、あの頃だって戻らない事も――



「……浩子おばちゃん、ありがとう」

母を見送りながら呟く。

霊安室に隣接された扉を出ると、空気が一変して爽やかに感じる。

「いいのよ、おばちゃんの妹なんだから」

「違うの……」

おばちゃんはわからないと言った表情で私を見ていた。

「小さい頃、服を沢山くれたじゃない?あれ、凄く嬉しかったの」


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