モラトリアムを抱きしめて
「何言ってんのよ、全部お古じゃない」

それでどれだけ私が救われたか。おばちゃんにはわからないのかもしれない。

同情やお節介で救われる人間がいるということを。

おばちゃんは不思議そうな顔をしていたけれど、少し照れたように笑った。

「初美ちゃんは赤が好きだったわよね〜懐かしい。」

「そうだっけ?」

「ほら、覚えてる?あのカーディガン。 うちの娘は派手だって着なかったのに、初美ちゃんは気に入ってくれて……おばちゃんが選んだものだったから、嬉しかったな」

赤……。

カーディガン……。


パッと頭に浮かんだのは倒れているはっちゃんの姿だった。


< 78 / 109 >

この作品をシェア

pagetop