サグラダ・ファミリア
「シン、心配してたんだよ・・・?」

震える声を、搾り出した。

「どうして急に、

 居なくなったり、

 したの?

 ずっと、

 そっちの私の、傍に居たの?
 
 
 そっちの私と、私、

 何がちがうの・・・?」


そっち?どっち?私?
同じ?違う!
私って何?私って誰?

私?僕?ワタシ?俺・・・わたし・・・


ワタシを忘れたのか?



おまえにだけは忘れられなくない!
愛しい我が妻よ!!!

耳に太い男の声。
内側から響いて来る。
ワタシの声。


ワタシは誰だ?

だめ、私は私。
でも誰?私は何?
ああああああ。

わからない!!!


『ゆうこ様!』
『お気を確かに!!』
『貴方は生霊です、
 ご自分をきちんと持って下さい!
 前世に支配されます!!』

おいで、おいで、この腕の中に・・・!
妻よ!!!

『ゆうこ様!』


何かを、


思い出しそうな時、

思い出す前の自分を、
失う感覚を覚えたら、
その何かは、

思い出してはいけない。



視界に映ったのは、毛むくじゃらで、
太く大きな男の手。それが自分から生えている。
ワタシはシンに向かい、腕を広げていた。
シンは後ずさり、もう一人の私の手を握った。

ああ、嫌だ、・・・浮気だ!


シンの体から、髪の長い、
絶世の美女が浮き出た。
東洋人らしく、細い目を、さらに細めて、
嬉しそうにワタシの腕の中に飛び込んで来た。
その存在は、妙にクッキリとしていて、
腕に重みさえ感じた。

『ゆうこ様、いけません!!』

ザビエルさんの声が聞こえる。
たぶん、この女の人を、シンから出してはいけないのだ。
女の人が浮き出た瞬間、シンは倒れていた。
もう一人の私が、泣きそうな顔で、シンの身を揺すっている。

渡すものか。


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