サグラダ・ファミリア
「そうなんだ・・・」
静かに、シンは緊張した声を出した。
あれ?シン少し引いてる?
陰りを帯びたシンの顔は、病弱な青年の切なさを持って、
私の胸をきゅんとさせた。
「シン、不安なの?・・・大丈夫?」
シンの手に手を重ねた、その瞬間。

ぞっとするほどの、直感が体を巡った。

これはドッキリじゃない。

本当の受胎儀式。
目と鼻の粘膜がピリピリと電気を浴びて、
高熱に浮かされたよう、意識が薄れてはハッキリし、
何もかもに実感を覚えた。

受胎する。

私は受胎する。


本当に、神や、精霊は存在し、霊魂はある。


それが「わかった」感触。

夢の中で、
説明も受けないのに、その世界の規則を把握するような。

逃れられない試練が、今目の前に迫ってる。


緊張で体内から、石のような「気」が、
ぐっと押し寄せて来て、
胃が口から出そうになった。

咽喉に苦いものが広がる。

「シン、・・・」

今更怖いなんて言えない。今更逃げたいなんて。
でも、言い様のない、恐ろしさで手が震える。

昨日まで、こんな異質な現実とは、
無縁だった。

パスポートを持って来た母親の顔は、
半笑いだったのではなく、泣きを堪えていた。

どういうことだろう。
家族ぐるみで、運命が隠されていた。
目の奥が痛いと思ったら、涙が勢い良く出ていた。



ドッキリだったら良いのに。

これが、テレビのドッキリなら。


違う、と心の底で「わかって」しまった癖、
まだ正常な世界から、離れたくなくて願う。

嫌だ。怖い。怖い。怖い。

失敗したらどうしよう。
痛みは伴うの?私にできるの?


< 6 / 202 >

この作品をシェア

pagetop