海までの距離
こっちはまともに化粧だってしてないんだ。
…あ、よく考えてみたら今日海影さんに会えなかったのは不幸中の幸いかもしれない。


「海影さんは今どちらに?」

『これからライブだよ。今、髪をセットして貰ってる』

「またギリギリな時間にお電話して下さったんですね…」


この前、私が電話した時と同じシチュエーション。
きっと時間に余裕なんてないはずなのに。
口ぶりからして、おそらく、また私を心配して電話してくれたんだ。
有り難いやら、申し訳ないやら。


『俺が電話したいから電話したんだよ』

「ちょっ、そんな公衆の場で大声でそんなこと言ったら誤解が…!」

『ミチじゃあるまいし、普段の行いがいいから平気だって』


ミチさんの女遊びは、そんなにも有名なのか。
あんなにも女の子顔負けの愛らしさを持っていながら女好きだなんて、何と言ってよいやら。
だけど、バンドマンならそれが普通なのかもしれない。
黙っていたって女の子は次から次へと寄ってくるんだもん、えり好みして付き合ったっていいくらい。
それなら、じゃあ、海影さんの場合は?
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