海までの距離
窓側の指定席に座る私には、外気の寒さがガラスを隔ててもダイレクトに伝わってきた。
さっきまで触れていた手の温度は、もうすっかり冷めている。
それなのに、不思議と感触だけはうっすらと残っていた。
バンドマンの海影さんは、沢山ファンがいて、沢山の女の子から好かれている。
その数は、きっとこれからどんどん増えていく。
もしかしたら私なんかが好きになってはいけない人なのかもしれない。
でも、それだからと言って、諦めたくない。
諦めて失うなんて、そんな後悔する道は選びたくない。


“迎えに行くよ”


海影さんの言葉を何度も反芻して、私は目を閉じた。
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