海までの距離
萩原さんに電話をするのは抵抗があった。
私が名刺を渡していないんだから、私が連絡をするのが筋なのは理解している。しかしながら、「一介の女子高生が大手雑誌社の編集長に電話ってどうなのよ?」というのが本心。
ただ、それも思い切って通話ボタンを押すまでの話で、いざ電話をしてみたら、とんとんと話は進んでいった。
まあ、パソコンで記事を送るだけなんだから、堅苦しく考え込む方がおかしかったのかもしれない。
ともあれ、私のライブレポートは手直しを一切されることなく萩原さんに受け取って貰うことができた。


『そりゃ幸先いいな、そこまでスムーズに事が運ぶと』


電話の向こうで、海影さんは嬉しそうだった。
12月30日、23時。
明日はカウントダウンイベントだから、年内に海影さんの声を聞くのはこれが最後になるだろう。


「そうなんですよね…逆に不安」

『何で?』

「いや、理由なんてないですけども」

『じゃあ素直に喜びなさい。またすぐに次の仕事だってあるんだし』
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