海までの距離
私のその仕種が可笑しかったのか、海影さんがくすくす笑う。


「片手でいいよ」

「あっ、すみません」


慌てて右手を引っ込める私。
すると海影さんは、自分の手首からブレスレットを外して、私の手首に掛けた。
その意味が分からず、きょとんとしている私を無視して、


「預けとく」


そう言って、海影さんはブレスレットを留めた。


「これを!?」

「格好いいだろ、ロイヤルオーダーの。東京に来てすぐ買ったやつ。一番気に入ってんだ」


格好いいだろって…格好いいけど、でも、預けるって何?
太くはないけれど、ずしりと重たいシルバーの鎖。
私の腕時計に絡み付く。


「必ず返しに来い。受験を終えて東京に来て、必ず」


バスが私達の前に停まった。
ぞろぞろと、バスの扉の前に人が並び始める。
海影さんも、静かに立ち上がった。
それに促されて、私も鞄を手にして立ち上がる。
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